家に帰った私は、自分でもびっくりするほど普通だった。妻とは普通に会話をし、普通に一緒に買物に行き、普通に子どもたちと接した。
家族の前では普通にできていたが、心では早く小林のいるところに戻りたがっていた。すっかり小林に心奪われ、早く会いたくてしかたがなかった。
普通に休日を過ごし、普通に仕事をしているうちに、また出張の日がやってきた。
今回も2泊の予定である。
私が家にいるときも、小林とはLINEでいろいろやり取りはしていた。でもそのほとんどが仕事に関する事務的なもので、お互いまだ気まずさというか、距離感を探っているような感じであった。
出張の前日、こんなLINEを交わした。
今日部長に教えてもらった施術でお客様デビューしました!
良かったです。どうでした?
お客様は良かったとおっしゃってくださいましたが、まだ自信がないのであとで高橋さんに練習台になってもらって練習しようと思います。
頑張ってください!期待してますよ!
なんか事務的なやり取りに違和感…💦
なんか、うん、ちょっと変ですね
このやり取り高橋さんに見られたりしてない?”
今休憩中なので大丈夫だと思います!
そっか、良かった😊
そして、0時前くらいに、私はおやすみのLINEを送った。
また明日ね、おやすみ😊
起きてたんですね!おやすみなさい💕
おこちゃまかと思ってた?
違ったんですね😜
明日覚えてなさい!😊
😘
楽しみにしてます💕
ニヤニヤするがな・・・😊
😘
そして朝を迎え、いよいよまた小林に会える日がやってきた。
おはよ
部長、おはようございます
予定通り今日行きます
何時くらいになります?
いつもの病院で薬もらってから行くから13:30くらいかな?
わかりました。
お昼食べてきても大丈夫ですからね。
でもなるべく早く来てね💕
はいよー
💋
そして私は用事を済まし、小林も待つ熱海に向かった。運転中も心が踊り、早く会いたくて仕方がなかった。
寮に着いたらすぐに彼女の部屋に行き、抱きしめたかった。
寮に着き、私はすぐに彼女にLINEした。
着いたよ。暑いねー💦
ねー
今部屋?
ううん、ちょっと見たいところがあって、今ホテルの近く
肩透かしである。
私も彼女が私の到着を待ってくれているとばかり思っていた。
確かに私が到着してまもなくホテルに向かわなければいけない時間のため、寮で会ったからといって何かする時間もない。とはいえやはりがっかりしたのは事実である。
これからホテル向かいます
はーい
そうして私は勤務先のホテルに向かった。
彼女が寮で待っていなかったことで、あれっきりになるのかな?とか、ただ自分がうぬぼれていただけなのかな?とかいろんなことを考えていた。会える嬉しさもあるが、会ったときの不安感も生じていた。
お店に到着したら小林が開店前の清掃をしていた。
「お疲れ様でーす」
「あ、部長、お疲れさまです。」
今日は小林一人の勤務である。
若干の気まずさも覚えながら、とりあえずは仕事モードで二人とも開店準備をすすめた。
開店準備は終わったものの、その時点ではまだお客様の予約はなかった。
二人ともとりあえず控室の椅子に座っていた。
「今日お客様入るといいね。」
「最近もまだ少ないですからね。館内もずっと静かです。」
「もうすぐGoToトラベルも始まるし忙しくなるかもよ。」
「暇より忙しい方がいいからどんどん来てもらいたいです。」
「そうだよね。でもなんか変な感じだね。」
「そうですね。部長、家では大丈夫でした?」
「うん。自分でもびっくりするくらい普通にしてた。微塵も疑われていないよ。」
「ほんとですかー?部長、実は慣れてるとか?」
「慣れてるか!ほんと初めてでいまだにドキドキしてるんだから。」
「まーいいですけど。私は後悔してないですよ。とっても素敵な夜でしたし。」
「ありがとう。俺も後悔はしてないよ。」
「よかった。」
こんな会話をしていながら、やはり微妙な距離感を感じた。仕事場でもあるし、お互いが距離の詰め方を迷っている感じだった。
それからしばらく、他愛のない会話をしながら予約が入るのを待った。しかしまったく内線がならない。
20時ごろ、少し外が暗くなった頃、彼女がトイレに立った。私もトイレに行きたかったため、彼女が戻ってすぐ、トイレに行こうとした。すると彼女が、
「部長、トイレですか?」
「うん」
「ちょっと待ってください!あと5分待ってから行ってください!」
なるほど、彼女は大きい方をしたから臭いがなくなるまで待ってということなんだ、とすぐにわかった。
「えー、漏れちゃうよ」
私はイジワルそうに言った。
「あー。部長わかってて言ってるでしょ!ほんとに待って!お願い!」
めちゃめちゃ可愛い…。
恥ずかしがってる彼女にまた胸が高鳴った。
「わかったよ。じゃ待ってる間だけ…。」
と言って、私は彼女を抱き寄せキスをした。
それまでイチャイチャしたかったのを我慢していたため、私は長く唇を重ねた。キスをしながら彼女の頭、背中、お尻を撫でた。
彼女は、
「部長、口紅付きますよ…。」
と吐息が漏れるような声で言った。恥ずかしがっているようでもあり、少し困惑しているような感じを受けた。
「大丈夫。誰もいないし」
そう言って私は舌を絡めてますます激しくキスをし続けた。
彼女は恥ずかしそうに、私を離し、
「もう、早くトイレに行ってください!」
と言った。
「わかったよ」
と言い、私はトイレに行った。
トイレから戻ると、彼女は口紅を直していた。
「ただいま」
「トイレから戻ってただいまって変じゃない?」
「そう?」
「もう部長、いきなり過ぎ!びっくりしたー。」
「ごめん。」
「ううん、嬉しい。」
そう言うと彼女は椅子に座った私の膝の上に座ってきた。
私は彼女の腰に手を回し、彼女を抱きしめ、彼女の胸に顔を埋めた。彼女も私の頭を優しく包むように抱きしめ、頭に頬をつけてきた。そしてまたキスをした。
「また口紅落ちちゃうよ。」
「今日はもうお客様こなさそうだし。」
「まぁそうだけど油断できないよ。」
「予約の電話来たらすぐ直します。」
そうして熱く熱くキスをした。