次の日の仕事はゆっくりだったので、10時くらいに目覚めた。
昨日の出来事をまだ現実とは思えず、でも布団に残るオイルの匂いに実際に起ったことなんだと受け止めざるを得なかった。最後までしたかったという思いももちろんあった。なんで今出会っちゃったんだろう。結婚前に出会いたかった。
起きてスマホを見ると、彼女からLINEが入っていた。
部長、おはようございます。昨日はありがとうございました。部長って真面目ですね。そういうの素敵だと思います。昨日はすみませんでした。
正直、彼女の気持ちが分からなかった。私が男としての自分に自信がないというのもあるが、あんな美人が私を好きになるわけないし、彼女はただ性に奔放なだけで身近な男で間に合わせようとしてるだけなのかもしれないし、もしかしたらハニートラップかもしれないし。
おはようございます。ちゃんと眠れましたか?眠くならないように運転気をつけて楽しんできてください。
私は当たり障りのない返信をした。本当に彼女に対する対応方法がわからなくなっていた。
この日は開店から閉店まで店舗にいる予定だった。主に管理業務なので、コロナで暇なその時点ではあまりやることはなかった。出勤してるスタッフの高橋と他愛のない話をしたり、簡単な事務作業等をして過ごしていた。
夕方、また彼女からLINEが届いた。
部長、お疲れ様です。いい宿を見つけました。今日はここでゆっくりしたいと思います。
特に宿泊している場所の名前などはなかったが、とりあえず泊まるところは見つけたらしい。
それはよかった。ゆっくり休んできてください。
素っ気なさすぎるかなと思ったが、あまり感情を入れないように返信した。
店舗にいる間も、昨夜のことを思い出してニヤニヤしてしまいそうになるのをなんとかこらえ、高橋に感づかれないように気をつけていた。気をつけていてもあまりの出来事だったため、きっとニヤニヤしていたと思う。
19時頃、高橋が休憩で店舗を抜けて私が留守番しているときに、また彼女からLINEが届いた。
部長~、ここの旅館すごくいいですよ!
お風呂も広いし、食事も美味しかった!
コロナだからか空いてるし。
良かったですね。
温泉いいですよね。
しばらく行ってないな。
帰ってきたら詳しく話聞かせてください。
なんてつまらない返信だろうとは思うが、変に感情を入れるわけにもいかないし、昨日のことに触れるとまた変なことになるかもしれないので、これ以上のことは返せなかった。
ここでまた部長にマッサージしてもらえたらもっと休めるんだけどな~
おいおい。やめてくれ。これ以上何かあったら断れる自信ないよ。
してあげたいけどさすがに行けないからね。温泉だけでも十分休めるでしょ。
えー、でも部長に今から来て、っていったら本当に来てくれそう笑
いやさすがに無理でしょ。閉店までいなきゃいけないし。
大丈夫ですよ。無理は言いません。
ただ部長とここに泊まれたら楽しいだろうなと思っただけです。
やめてくれ。止まれなくなるだろ。こんな露骨な誘惑、嬉しすぎて暴走しちゃうよ。でもほんとに俺とそういう関係になりたいと思ってるのかな?いやそんなはずはないよな。と自問自答していた。
まぁとりあえず寝不足だろうからいっぱい寝てゆっくりしてください。
なんか突き放したような感じになっちゃったかな?とは思ったが、今の自分にはこう送るのが精一杯であった。
はーい、おやすみなさい
こんなやりとりをするのもすごく楽しかった。久しくなかった感情だった。妻のことはもちろん大事だし、仲もいい。レスではあるが、浮気したいと思ったこともなかった。でも遠い昔にあったドキドキするような出来事はもう何年もなかった。この久しぶりのドキドキ感がとても楽しかった。
次の日の朝、彼女からLINEが入っていた。
部長、おはようございます。おかげさまでゆっくり休めました。今日は実家に泊まって明日開店に間に合うように直接行こうかと思います。
おはようございます。ゆっくりできて何よりです。出勤の件、了解です。ご家族と楽しい時間を過ごしてきてください。
なにげないやり取りではあるが、これがうれしかった。気がつくと彼女からのLINEを楽しみにしている自分がいた。
13時頃、また彼女からLINEが届いた。
お疲れさまです。今実家にいるんですが、昨日泊まったところに露天風呂付きの部屋があって、どうしてもそこに泊まりたくて、やっぱりまた行こうかと思ってます。部長、一緒に泊まるのは無理ですか?
ドストレートに誘われた。直球過ぎて返すことができない。どうしよ。一人で部屋でもだえた。
お疲れ様です。いやいや、一緒にって、そういうことになっちゃうよ。
そういうことってどういうことですか?また部長にマッサージしてもらって、一緒に過ごしたいだけなんですけど。
文面から本心が読めない・・・。ここで変に意識して自分だけ変な考えを持っていて軽蔑されるなんてことがあったらやだし、もうどうしたらいいかわからない。
マッサージして一緒に過ごしたら、そういう事になっちゃうんじゃない?
部長、エッチですね💕
この彼女の一言でタガが外れたような気がする。
エッチですねって笑
そりゃ健全な男子だしどうなるかわかんないよ?
私はどうなっても大丈夫ですよ😊
うわぁ、これ完全にOKのやつだ。やばい。どうしよ。ここまでされて断るのもダメなような気がする。でも、いやいや、ちょっと待って。やっぱりダメだよ。そう思いながら全く違う返信をしていた。
どうなるんでしょ笑
どこに泊まりたいの?
彼女からその宿のリンクが送られてきた。
確かにきれいな部屋で、露天風呂付きだった。1泊一人2万7千円。普通のサラリーマンなのでなかなか泊まれるようなところじゃない。それでもコロナのせいでだいぶ安くなってるらしい。幸い、へそくりが少しあったので泊まれない額ではなかった。
素敵なところだね。
でも21時まではお店にいなきゃならないから、やっぱり難しくないかな?
ここからだったら飛ばしても2時間以上かかるでしょ。
なんか用事ができたとか言って早く上がれないですか?
どうだろ?特にやらなきゃならないことはないから大丈夫だとは思うけど。
19時くらいには上がるように言ってみようか?
じゃ予約してもいいですか?
ここで急に理性が戻ってきた。予約したら行かなきゃダメじゃん。どうしよ。ほんとに行くの?行ったらもう後戻りできないぞ。
でもここでも頭と違うことを返信した。
いいよ
もう欲望が理性を上回ってしまっていた。完全に彼女の誘惑に敗北した瞬間だった。ただ、いいよ、とは言ったものの、ほんとに行くのか?行ってもどうしたらいいかわからないぞ?
すると彼女から現実的な返信が来た。
ちょっと下世話な話になっちゃうんですが、宿代は出していただけるんでしょうか?
私は昔気質の男なので、基本的に女性にはお金は払わせたくない。食事でもなんでも男が出すのが当然だと思っている。ただちょっとばかり高い・・・。へそくりで出せない金額ではないが・・・。
楽しませてくれたらね!笑
何を送ってるんだ俺は!アホなのか?なんだよ楽しませてくれたらねって。何を楽しむつもりなんだ?完全に浮かれていた。
えー、頑張ります笑
お部屋のお風呂楽しみですね💗
背中流してくれるってこと?笑
だめだ。完全に浮かれポンチだ。バカ丸出しだ。
いいですよ。お背中お流しします笑
いいんかい!
もう有頂天だった。楽しみすぎてニヤニヤが止まらない。きっとこの瞬間世界一浮かれた男であった。
緊張するがな💦
とりあえず予約したら予約画面送ってください。
わかりました
まもなく彼女から予約画面が送られてきた。1泊2食付き。19時に上がっても食事の時間に間に合わない。
予約ありがとう。
夕食の時間に間に合わないかもよ。
18時くらいに上がればギリギリ間に合いませんか?
18時は無理じゃないかな。
もし間に合わなかったら食べてて。
わかりました。
気をつけてお越しください。
私は夕方には着いてると思います。
了解です。
小林さんも運転気をつけてください。
お店に出勤してすぐに、高橋に横浜で用事ができたので18時ごろに上がる旨を伝えた。
16頃に彼女からLINEが届いた。
今着きました。204号室です。出るとき連絡くださいね。
ほんとに行くんだ。参ったな。一線を越えることになるのか。
期待と不安が混じりながら出発の時を待った。ところが、向かおうと思ったその時にお客様対応が入り、結局出発できたのが19時になった。
ごめんなさい。
急な仕事が入って今出ました。
これから向かいます。
ご飯は間に合わないと思うので一人間に合わないって伝えてもらっても大丈夫です。
わかりました。気をつけてきてくださいね🚗
私は急いだ。早く会いたくなっていた。どんなことになるのか、どんな夜になるのか、楽しみだった。その時は不安な気持ちはあまりなくなっていた。妄想が止まらなくなっていた。どんなマッサージをしようか、ほんとに一緒にお風呂に入るのか、そのままそういう事になってしまうのか。
万が一そういう事になったときのため、道中でコンドームを買った。コンドームを買うのも何年ぶりだっただろうか。
宿に着いたのは22時くらいだった。思っていたより時間がかかった。到着してすぐに
今着きました。これから部屋に向かいます。
と送った。
すぐにフロントに向かい、名前を告げた。フロントのスタッフさんが部屋まで案内してくれた。
部屋についてノックしても返事がない。LINEを見ても既読になっていない。
フロントのスタッフさんが内線を入れてくれたが応答がない。
寝てるのか?
合鍵がないか聞いたが、すでに入ってる彼女の了承がないと開けられないとのこと。
とりあえずここで待ちますとスタッフさんに告げ、部屋の前でまっていた。
30分くらいして、浴衣を着た彼女がやってきた。
「部長、着いてたんですね。」
「着いてたんですねじゃないよ、30分以上待ったよ。こんな遠くまで呼んでおいて部屋にいないってひどくない?」
私は冗談交じりに言った。
「ごめんなさーい。大きいお風呂にも入りたくてのんびり入ってきちゃいました。」
そんなマイペースなところも可愛い。
彼女が部屋の鍵を開け、我々は部屋に入った。